
栫井です。
本格的な金利上昇局面を迎え、ポートフォリオのリスクヘッジとして「金融株」への注目が高まる中、私が目を向けたのは「楽天銀行(5838)」です。
同社はネット銀行の強みを活かし、ROE約20%という他行を凌駕する驚異的な収益性を誇ります。武器は、楽天経済圏を背景とした「預金の粘着性」です。口座連携やポイント還元といった利便性で預金を集めているため、金利上昇時にも預金獲得コストの増加を抑えつつ、その恩恵を最大限に享受できる強固なビジネスモデルを持っています。
一方で、足元の株価は下落傾向にあります。その背景には、楽天カード・証券の統合に伴う株式の「希薄化」や、将来的な親会社による株売却リスク(オーバーハング懸念)といったネガティブな要因が存在します。
本動画では、楽天銀行の圧倒的な強さの裏側を徹底解剖するとともに、ガバナンスの問題を深堀りします。楽天銀行はポートフォリオに加えるべき銘柄なのか、一緒に考えていきましょう。
動画の内容
1. 調査の背景:金利上昇局面におけるポートフォリオの「守り」
日銀による政策金利の引き上げが発表され、マクロ環境が金利上昇へと向かう中、ポートフォリオが市場平均に劣後しないためのリスクヘッジとして、金融株の組み入れが検討課題に挙がっています。
一般的に金利上昇の恩恵を受けるのはメガバンクや地方銀行ですが、メガバンクは既に株価が大きく上昇しており、旧来型の企業体質ゆえの非効率性や、決して高くない収益性(ROE10%程度)が懸念されます。また、特徴のない地方銀行への投資も成長性が乏しく魅力的とは言えません。
そこで我々が注目したのが、ネット銀行ならではの圧倒的な経営効率(OHR:経費率の継続的な低下)を持ち、ROEが約20%に達している楽天銀行です。足元で楽天グループ内の金融再編を理由に株価が下落(2026年2月・5月に急落)しており、ここが絶好のエントリーチャンスとなる可能性があると考え調査を実施しました。
2. 「預金の粘着性」がもたらす圧倒的な強さ
2001年の創業(旧イーバンク銀行)以来、楽天銀行は驚異的な成長を遂げています。
- 口座数の推移:2018年の約600万口座から、現在は1,700万口座へと倍増。日本の人口の10%以上が口座を保有している計算です。
- 預金残高:かつての2兆円規模から、現在は12兆〜13兆円に達し、地方銀行の上位から中堅クラスに匹敵する規模に成長しています(同規模では福岡銀行、静岡銀行など)。
- 業績の拡大:2022年の上場時から収益は約2.5倍に拡大。経常利益は279億円から1,000億円へと約4倍に急拡大しています。
最大の武器は「預金獲得コストの低さ」
銀行の成長の源泉は「預金」を集め、それを運用することです。多くのネット銀行は、金利を高くするキャンペーンで預金を集めています。そのため、市場金利が上昇すると、預金の流出を防ぐために自社の預金金利も引き上げざるを得ず、コストが収益を圧迫するジレンマに陥ります。
しかし、楽天銀行は異なります。顧客が預金を置く理由は金利の高さではなく、「楽天カードの引き落とし口座にするとポイント還元率が上がる」「楽天証券との口座連携(マネーブリッジ)でシームレスに資金が移動できる」「給与振込や住宅ローンの口座に指定することで利便性が高まる」といった楽天経済圏のメリットにあります。
このため、楽天銀行の預金は他行に逃げにくい(=預金の粘着性が高い)という強みを持ちます。会社側の試算によれば、金利上昇による収益増加がプラス281億円であるのに対し、預金金利引き上げ等の費用増加は136億円に留まる構造となっています。
3. 超安定的な資金運用:放置で金利上昇の恩恵を受ける
預金を集める力が強固な一方で、現在の楽天銀行の資金運用は非常に保守的かつシンプルです。
- 貸出金(約5.81兆円、全体の37%)の内訳:そのうちの**33%が「財務省向け貸出」**です。これは国債と似ていますが、国債のように価格変動リスクがなく、金利上昇の恩恵をそのまま受けられる極めて安全な運用です。
- 法人向け融資はほとんどない:楽天市場の出店企業などへの融資が多いと想像されがちですが、実際には法人融資は全体の約2%しかなく、一般的な銀行とはビジネスの対象が全く異なります。
- 買入金銭債権:これは主に楽天カードへの貸出に相当するもので、資金運用の大きな割合を占めています。
現状は「高度化されていない安定運用」ですが、これは逆に言えば、市場金利が上がれば日銀預け金や財務省向け貸出の利息が自動的に増えるため、何もしなくても恩恵を受けられる状態にあります。今後はカードローンや投資用マンションローンなど、よりリターンの高いミドルリスク資産への貸出を強化していく方針です。
4. なぜ株価は下がったのか?:グループ再編の裏側と悪影響
事業モデルは完璧に見える楽天銀行ですが、足元の株価は下落しています。その最大の要因は、楽天銀行の傘下に楽天カードと楽天証券を統合するグループ内再編です。
証券・カードの単独上場頓挫と、再編による「株式の希薄化」
元々、楽天グループ(親会社)は資金繰りのため、楽天銀行に続いて証券やカードも単独で上場させ、その株を売却して資金調達する計画だったと推測されます。しかし、以下のような要因でそれが困難になったと見られます。
- 楽天証券:昨今発生した銀行や証券のセキュリティ問題により、今後のセキュリティ対策コストの増大が懸念されたこと。
- 楽天カード:市場からの調達金利が上昇する一方、個人向けキャッシングの貸出金利は上限(14.5%など)が決まっているため、利益の利ざや(スプレッド)が縮小する構造的な逆風があること。
そこで、既に上場している楽天銀行の傘下に両社を集約させる方針に転換しました。 問題は、この統合の対価として楽天銀行が新たに株式を発行し、親会社に割り当てる点です。これにより、株式数は約2.3倍(希薄化率130%)に膨れ上がります。一方で、証券とカードを取り込むことによる利益の増加は約1.5倍にとどまります。
結果として、1株あたりの利益(EPS)は薄まります。再編前の今期予想EPSが約466円だったのに対し、実質的には360円程度に低下する計算です。現在の表面上のPERは11.3倍ですが、再編後の実質的なPERは15倍程度に押し上げられることになり、これが投資家に嫌気されています。
拭いきれない「オーバーハング懸念」とガバナンスのリスク
さらに懸念されているのが、**オーバーハング(大量の売り待機株)**の問題です。 再編後、楽天グループは楽天銀行の株式の約72%を握ることになります。親会社が資金調達のために、将来的にこの株式を市場で大量に売却するのではないか(持ち株比率を49%未満に引き下げるなど)という警戒感が強く存在します。
また、三木谷氏が楽天銀行の会長に留まる中で、親会社の都合が優先されるのではないかというガバナンスへの不信感もあり、議決権行使助言会社のISSが役員選任に反対する事態も起きています。
5. リスクを取る価値のある「金融セクターの最適解」か?
マクロ経済の動向は不確実であり、景気悪化によって想定通りに金利が上昇しないリスクも当然存在します。しかし、仮に金利上昇が緩やかなものに留まったとしても、楽天銀行には「預金の粘着性」と「圧倒的な経営効率」というビジネス上の強固な土台があるため、単独でも十分に成長を維持できる面白さがあります。
ガバナンスの問題やオーバーハング懸念により株価の上値が重くなるリスクはあります。しかし、親会社にとっても保有する楽天銀行株の価値を最大化して高く売却する方が合理的であり、既存株主との利害はある程度一致します。また、一度希薄化のショックを消化してしまえば、同じ規模の希薄化が何度も起きるわけではありません。
総じて、金利上昇へのリスクヘッジ(守り)として金融株を組み入れるのであれば、収益性の低い地銀やメガバンクを選ぶよりも、多少のガバナンスリスクを抱えてでも、ROE20%という圧倒的な収益力と独自の強みを持つ楽天銀行を選ぶ方が、はるかに「つばめ投資顧問らしい」選択であると言えます。
現在の株価下落は、再編の複雑さによる一時的な不透明感がもたらしたものであり、実質的なバリュエーション(PER15倍程度)を見てもさほど割高ではありません。金利の動向そのものももちろん重要になりますが、中長期的な成長と金利上昇の恩恵を取りに行くための魅力的な投資候補として、引き続き注視してまいります。
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執筆者
栫井 駿介(かこい しゅんすけ)
つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師
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