三菱UFJ(8306):金利上昇時代、銀行株はポートフォリオに「必須」か?

最近、三菱UFJをはじめとするメガバンクの株価が力強い上昇を見せています。私たちの定例会でも「金利上昇に備え、ポートフォリオの安定剤として銀行株を買うべきか?」という議論になりました。

「金利が上がるなら買い」と考えるのは自然なことですが、私たちバリュー投資家としては、表面的なチャートや好業績だけでなく、その「中身」を誠実に見極めたいと考えています。

調べると、今の三菱UFJは旧来の銀行から、莫大な手数料を稼ぐ「投資銀行」へと進化していました。企業としての実力は間違いなく高まっていますが、同時に「景気の波に大きく左右されやすい」という弱点も見えてきました。

すでに多くの期待が株価に織り込まれた今、本当に銀行株は私たちの資産を守る「安定剤」になってくれるのでしょうか。

本レポートでは、メガバンクの「真の実力」と「死角」を分析し、今後の金利動向に関するディスカッションも行いました。皆様の大切な資産をどう守り育てていくか、この機会にぜひ一緒に考えてみませんか。

動画の内容

このレポートは先日のつばめ投資顧問定例会にて交わされた「金利上昇局面において、ポートフォリオに銀行株を組み入れるべきか」という議論が出発点になっているものです。 「すでに上昇した株に順張りでついていくのは大人の投資かもしれないが、独自性が見出しにくい」という葛藤を解消すべく、現在の三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、三菱UFJ)のビジネス構造からマクロ経済の裏側まで、徹底的に解剖します。

1. 株価とバリュエーションの現在地:「期待」で支えられた美しいチャート

まず、足元の株価推移を確認します。週足の10年・5年チャートを見ると、この5年間で株価は約560円から3,300円へと、およそ5倍から6倍にまで大化けしています。 ここで特筆すべきは、相場が過熱して急騰(山高ければ谷深し)するのではなく、「じっくりと綺麗に右肩上がりを続けている」という点です。これは、日銀が急激な利上げを行わず「まだ利上げの余地がある(期待が残っている)」という絶妙な寸止め状態を維持していることが、株価の好調を後押ししていると考えられます。

しかし、バリュエーションの観点からは景色が異なります。かつてPBR0.45〜0.5倍、予想配当利回り5%近くと「超割安」に放置されていた5年前なら絶好の買い場でしたが、現在はPBR1.68倍、実質的なPERは約15倍まで切り上がっています。もはや純粋なバリュー株(割安株)としての魅力は薄れていると言わざるを得ません。

2. 「7,860億円の増益」を解剖する:実力か、一時的要因か?

直近の業績において、営業純益が7,860億円という大幅な伸びを記録していますが、この中身を冷静に分解(2025年度見通し等の文脈)すると以下のようになります。

  • 特殊要因(約3,800億円):増益分の半分近くは、政策保有株式(持ち合い株)の売却益という一時的な要因です。
  • 金利上昇の恩恵(約1,500億円):富裕層向けの資産運用(法人WM)や、これまでの金利引き上げによる利ザヤ改善が寄与しています。
  • 投資銀行業務(GCIB・JCIB)の拡大:海外・国内双方での投資銀行ビジネスによる手数料収入の増加が、もう一つの大きな柱となっています。

さらに、今後の金利上昇による上積みとして、ゼロ金利解除前を起点とすると2028年度には5,250億円の利益増(預貸金利回り改善など)が見込めるという試算も公表されています。

3. メガバンクから「グローバル金融グループ」への完全変容

現在の三菱UFJを旧来の「預金を集めて貸し出す銀行」と捉えるのは誤りです。同社は現在、モルガン・スタンレーやJPモルガンといった米国のトップ金融機関をモデルとした「グローバル金融グループ」へと変貌を遂げています。

① 莫大な利益を生む投資銀行ビジネス(IB業務) 収益の牽引役であるGCIB(海外)およびJCIB(国内)は、M&Aのアドバイザリーや企業の資金調達(株式IPOや債券発行=ECM/DCM)を支援する業務を含みます。 例えば1兆円規模のM&A案件をまとめた場合、その数パーセント(例:4%)が手数料として入るため、1件で400億円もの利益が転がり込む非常にスケールの大きなビジネスです。現在、三菱UFJの粗利の半分は従来の預貸金収益ですが、残り半分はこうした手数料ビジネスが占めるまでになっています。

② モルガン・スタンレーとの強固な連携と「銀証連携」の強み リーマンショック時にモルガン・スタンレーへ出資して以来、同社から世界最高峰の投資銀行ノウハウを吸収してきました。 また、大和証券や野村證券といった独立系証券会社に対し、三菱UFJは「銀行の巨大な貸出枠(バランスシート)」を交渉材料として使えるという圧倒的な強みがあります。「巨額の融資をする代わりに、増資や社債発行の主幹事も任せてほしい」という営業が可能であり、シェアを急速に拡大しています。ただし、純粋な海外メガ案件では依然として米系トップが主幹事となるため、主なターゲットは「海外展開する日本の大企業」となります。

4. 株価上昇のカラクリ:「自己資本規制」とROE・PBRの連動

銀行株のバリュエーションを語る上で欠かせないのが「ROEとPBRは連動する」という業界特有の法則です。 銀行は「バーゼル規制」により、保有する自己資本に対して取れるリスク量が厳しく制限されているため、単なる貸出業務(バランスシートを使うビジネス)だけでは利益の天井が決まってしまいます。

しかし、投資銀行業務(手数料ビジネス)はバランスシートを使わない(リスク量ゼロの)ビジネスであるため、この規制の枠外で利益を無限に積むことができます。 これがROE向上に直結します。現在、三菱UFJのROEは約11%(PBR約1.6倍)ですが、モルガン・スタンレー(ROE16%、PBR2.8倍)やJPモルガン(ROE17%、PBR2.5倍)といった世界トップレベルを目指し、ROEを引き上げることでさらなるPBRの向上を狙っているのが現在の戦略です。

5. AI活用とリストラによる「乾いた雑巾を絞る」コスト削減

収益性向上のもう一つのドライバーが抜本的なコスト削減です。 低金利時代から窓口業務の削減や店舗統廃合を進めてきましたが、現在はAI(生成AIなど)を活用した審査業務や書類整備の効率化が本格化しています。これにより、従来数人がかりで行っていた業務を1人でこなせるようになり、浮いた人員を投資銀行業務など利益を生む部門へシフトさせる、あるいは単純な人件費削減につなげることが可能になっています。

6. 投資判断の死角:マクロ経済とポートフォリオ理論からの懸念

ここまで企業の強さを解説しましたが、現在の株価で投資に踏み切るには、以下の重大な懸念点が存在します。

懸念①:シクリカル(景気連動)性の極まり 投資銀行業務やウェルスマネジメントは、経済が活況でお金の回りが良い時には莫大な利益を生みますが、不況で資本市場が冷え込むと案件が完全にストップし、一気に収益が悪化します。つまり、今の好業績は「景気の良さ」に強く支えられており、将来的に業績が急降下するリスクを内包しています。

懸念②:金利上昇シナリオの「政治的」な罠 現在、物価上昇率(2〜4%)に対して政策金利(1%)が低すぎる状態にあります。セオリーではハイパーインフレを防ぐために金利を物価上昇率以上に引き上げる必要がありますが、政府(リフレ派的志向を持つ層)はこれを嫌がっています。 なぜなら、インフレ下で低金利を維持すれば、「税収は増えるのに、国債(国の借金)の利払い負担は増えず、実質的な借金を目減りさせることができる」からです。過度な円安が進んだ場合は為替介入(実弾や口先)で凌ぎ、極力利上げを遅らせようとする力学が働いている可能性があります。したがって、「今後も順調に金利が上がり続け、銀行が儲かる」というシナリオを鵜呑みにするのは危険です。

懸念③:株主還元の余力低下 現在、三菱UFJの自己資本比率(CET1等)が社内目標を下回る水準にあり、リスク量をコントロールする必要に迫られています。そのため、株価の下支えとなる「自己株式の取得(自社株買い)」がやや打ちづらい資本水準になっている点もマイナス材料です。

懸念④:ポートフォリオの「安定剤」にはならない 「金利上昇のヘッジ」「ポートフォリオのディフェンシブ要員」として銀行株を買うという発想がありますが、前述の通り三菱UFJの業績は景気に強く連動します。景気後退期には半導体などのハイテク株と一緒に下落する可能性が高く、相場下落時のクッション(ディフェンシブ銘柄)としての役割は期待できません。 純粋に国内金利上昇の恩恵だけを狙うのであれば、国内の銀行業務の比重が比較的大きい「三井住友フィナンシャルグループ」の方が適している可能性があります。

結論

三菱UFJフィナンシャル・グループは、旧来の銀行モデルから脱却し、グローバルな投資銀行ビジネスでROEを稼ぐ「極めて優秀な金融グループ」へと進化しました。企業としての実力は疑いようがありません。

しかし、投資対象として見た場合、すでに株価には多くの期待が織り込まれており、バリュエーション的な妙味(割安感)は薄れていると感じます。また、収益構造が景気敏感型へとシフトしているため、ポートフォリオの安定剤として組み入れることには大きなリスクが伴います。

私のスタンスとしては、「皆が良いと思っている今の高値圏で飛び乗る」のではなく、「景気後退などで投資銀行部門の業績が悪化し、再び株価が割安な水準(PBRや配当利回りに魅力が出る水準)まで叩き売られたタイミング」を虎視眈々と待つのが、最も理にかなった投資行動であると現時点では考えています。

ぜひ皆さまからも、積極的なご意見をいただけますと幸いです。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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2026年7月13日 10:25 AM
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本日(7/13)、ついに、時価総額No.1になりました。予想より速い。

2026年7月8日 7:31 PM
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金利1%決定直後に、UFJと地方銀行4行を購入ました。
行動が遅いのは自覚しつつも、住宅ローンに対するヘッジ、SaaS中心ポートフォリオの盾として、私の中では合理的な判断でした。
あれから数日。UFJは微上げですが、地方銀行が調子いいです!
金利2%な世界は想像したくないので、チラつかせるだけで、できるだけ引っ張ってほしい!笑

2026年7月5日 9:04 AM
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動画の中で話していたLさんの銀行への視点も気になります。

動画後半の栫井さんが言っていた、Lさんとろくすけさんは違った見方をしているかもしれない、というくだりですね。

2026年7月9日 4:04 PM
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返信先  katahiro

katahiroさん

コメントに気づくのが遅くなりました。この動画のきっかけとなった、つばめの定例会の前から、一定の銀行株は個人的に保有していましたが、この直近の打ち合わせの「後」、更に某メガバンクを追加購入しました。

私は防御的というよりも、むしろ「攻め」の投資の気持ちです。実際、タイミングが良かったみたいです。

デフレ下、逆風の風が吹いていた銀行に、ようやくフォローの風が吹いている。素直にそこを評価しています。

ここは栫井代表とは捉え方が違うところです。

2026年7月5日 8:37 AM
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一言でいいますと、有料級動画だなと思いました。
有料級というか、有料ですが。
たいへん興味深かったです。