
日銀の政策転換などにより「金利上昇」が現実味を帯びる中、皆様のポートフォリオに金融銘柄は組み込まれているでしょうか?
先日、つばめ投資顧問で開催した「戦力外&ドラフト会議」でも、「金融株を持たざるリスク(インデックスへの劣後)」が大きな議題となりました。そこで今回は、数ある金融株の中から、いち早く多角化を進め独自の進化を遂げた「オリックス」に焦点を当てます。
同社の「金融寄りの商社」とも言える卓越したビジネスモデルを解剖するとともに、同業他社やメガバンクとの比較を実施。そして、長期バリュー投資家の視点から導き出した結論の真意を詳しく解説します。
動画の内容
先日、つばめ投資顧問の運営メンバーで行った「戦力外&ドラフト会議」にて、現在のポートフォリオに金融銘柄が含まれていないことが話題となりました。今後、金利が上昇していくと言われている中で、その恩恵を受けられる銘柄を組み入れないとインデックスに対して劣後してしまう可能性があるという観点から、今回は金融セクター、特に「オリックス」をピックアップして詳細な分析を行いました。
本レポートでは、オリックスのユニークかつ多角的な事業モデルを深く紐解きながら、同業他社やメガバンクとの比較を通じた今後の金融セクターへの投資戦略について解説します。
1. オリックスの事業モデル:リースを起点とした「金融寄りの商社」
一般的にはプロ野球球団のイメージが強いオリックスですが、日本でいち早くリース(モノを貸すビジネス)を始めた企業であり、これが同社の祖業です。 現在ではリース業を起点として隣接する事業へと領域を広げ、航空機リース、不動産、事業投資、コンセッション(関西国際空港などの運営)、環境エネルギー(蓄電所や水力発電)、さらには保険まで、ありとあらゆるビジネスを手掛けています。その姿は単なる金融業ではなく、「金融寄りの商社」と表現するのが適切です。
この多角化を支えているのが、長年培ってきた**「人脈」と「優秀な経営陣」**です。例えば空港運営などの大規模な公共事業は、関西の政治経済への太いパイプ(アクセス)がなければ任せてもらうことはできません。また、高橋COOをはじめとする経営陣はビジネスマンとして非常に優秀であり、自分たちの言葉で明確な戦略を語る力を持っています。 こうした柔軟な多角化経営の結果、オリックスは過去のリーマンショックという未曾有の危機においても、利益は減らしたものの赤字に転落することなく、長期的に右肩上がりで安定した収益を生み出し続けています。
2. 中核を担う「事業価値創造モデル」とキャピタルリサイクリング
オリックスの成長エンジンは、単にお金を出すだけではない独自の**「事業価値創造モデル」**にあります。
- 目利き力での投資:金融のノウハウを活かして収益性やリスクを見極め、企業や事業に投資します。
- バリューアップ(ハンズオン支援):資金提供にとどまらず、自社の人員を派遣してオペレーションのノウハウを現場に浸透させ、事業の資産価値を直接向上させます。
- キャピタルリサイクリング(売却):価値が高まった事業をずっと保有するのではなく、適切なタイミングで売却します。過去の事例を見ると、会計ソフトの「弥生」など、買収から6〜7年程度を一つのサイクルとして売却(エグジット)し、多額のキャピタルゲイン(売却益)を得るケースが多く見られます。得られた資金は、また新たな優良案件へと再投資されます。
3. 足元の好業績の裏側と、長期投資における「構造的な弱点」
直近の業績を見ると、税引前利益が前期比44%増など非常に好調に見えます。しかし、この利益の中身を分析すると、手放しで喜べるものではありません。
- 利益の多くは「売却益」:今期の増益の大部分は、過去に投資した事業の売却益や、東芝(キオクシア)への投資に伴う持ち分法投資利益の計上などによるものです。時期によっては、全利益の半分近くを事業の売却益が占めることもあります。
- 本業(オーガニック)の成長は鈍化:例えば事業部門では、昨年度は大阪でのイベント効果などで好調でしたが、足元では中国人観光客の減少により空港運営などが苦戦しています。売却益を除いた実質的なROE(自己資本利益率)は10%を割る水準であり、本業単体での収益性が突出して高いわけではありません。
- 「ノウハウがリセットされる」という構造的弱点:キャピタルリサイクリングは利益を生む一方で、「事業を育てては売る」ことを繰り返すため、現場の事業運営ノウハウが案件ごとにリセットされてしまうという欠点があります。長期的に複利で企業価値を伸ばし続けるビジネスモデルとしては、少し疑問符がつきます。
4. 金利上昇局面における同業他社(三菱HCキャピタル)との比較
同業である「三菱HCキャピタル」と比較すると、両社の戦略の違いが浮き彫りになります。
三菱HCキャピタルはリース事業に特化し、手堅くブランドとノウハウを蓄積しています。しかし、アセット(資産)購入資金を借り入れ等で調達しているため、金利が上昇するとまず調達コストが上がり、長期固定のリース料への価格転嫁が遅れることで一時的に利益が圧迫されます(今期は減益予想)。
一方のオリックスは、金利上昇を「プラス」に転換する機動力を持っています。例えば、これまで高金利で預金を集めてきた「オリックス銀行」は、調達金利の上昇で貸出金利との利ざやがマイナスに転じていましたが、オリックスはこの絶妙なタイミングで大和証券への売却を決定し、利益を確定させました。 ただし、手広く事業を展開するオリックスよりも、リースという本業に集中する三菱HCキャピタルの方が、長期投資家としては管理や予測がしやすいという見方もできます。
5. メガバンク等、その他の金融株に対する見解
金利上昇といえばメガバンク(三菱UFJフィナンシャル・グループなど)の恩恵が期待されますが、現在の株価上昇については懐疑的な見方をしています。 これまでの初期段階では「貸出金利」だけが上がり、ゼロのまま据え置かれていた預金金利との利ざやが急拡大しました。しかし、今後は預金獲得競争のために「預金金利(調達コスト)」も引き上げざるを得ず、利ざやの拡大は頭打ちになる可能性が高いと考えています。
我々が有望視しているのは以下の領域です。
- 損害保険(東京海上など):生命保険のように金利上昇による債券含み損の悪影響を受けにくく、むしろ恩恵を受けやすい構造にあります。
- 楽天銀行:高金利ではなく「楽天経済圏」で預金を集めているため、預金の粘着性が高く調達コストが上がりにくいという独自の強みを持っています。
6. 結論:オリックスへの投資判断は「今ではない」
オリックスは類まれなる「目利き力」と「バリューアップ力」を持つ素晴らしい企業です。東芝への投資に見られるように、市場環境が悪化し、他社が資金を出せないタイミングで優良資産を安く買い叩く「逆張り投資」において最大の強みを発揮します(バークシャー・ハサウェイの手法とも似ています)。
しかし、現在の好業績は「過去の危機時に安く仕込んだ資産が花開き、売却益を生んでいる収穫期」の数字に過ぎません。株価もキオクシア上場などの期待感から高値圏にあります。
以上のことから、**オリックスへ投資するベストタイミングは「市場環境が悪化し、業績が大きく落ち込んだ時(彼らが安く資産を仕込んでいる時)」であると考えます。したがって、現在の状況を踏まえると、つばめ投資顧問としての結論は「投資するのは今ではない」**となります。
金利上昇に対する焦りは禁物です。一時的な好業績の波に乗るだけでなく、「長期的に資本収益性を維持できる企業」を厳選し、適切なタイミングでのバリュー投資を心掛けてまいります。
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執筆者
栫井 駿介(かこい しゅんすけ)
つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師
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