高砂熱学工業(1969):株価に割安感…DCで大きく羽ばたけるか?

今回は、「研究室プロジェクト」でも話題に挙がった空調サブコン国内トップの『高砂熱学工業』について深掘り分析しました。

足元では営業利益率が11%へ急上昇し、市場では『AI・データセンター銘柄』として大きな注目を集めていますが、私たち長期投資家にとって大切なのは『この業績拡大が本物なのか、一過性の好業績なのか』を冷徹に見極めることです。

独自の省エネ冷却技術や職人組織『高和会』といった強みはもちろん、実際の業績を牽引している半導体需要の実態、そして資本効率や現在の株価水準(PBR約3倍)に対する評価まで、長期投資の視点で徹底解説します。ぜひ最後までご覧ください。

動画の内容

1. 問題提起

今回の分析のきっかけは、Discordで展開している「研究室プロジェクト」にて高砂熱学工業の紹介を受けたことです。

当プロジェクトでは以前、同じく空調サブコン大手のダイダンを取り上げました。その際、サブコン業界全体の活況が確認できた一方で、企業ごとの独自色や長期的な取り組みにどのような違いがあるのかが大きな関心事となりました。

空調業界で「日本一」と評される高砂熱学工業について、足元の業績ブームに乗っているだけなのか、それとも長期的に保有できる強固な技術経営基盤を持っているのかを掘り下げました。


2. 高砂熱学工業のコア・コンピタンス:技術の極致と「高和会」

① 1923年創業と空調日本一の実績

同社は1923年に暖房会社として設立され、現在では大型空調設備分野で国内トップの実績と圧倒的な特許技術を保有しています。東京ドームや大阪ドームといった特殊なドーム構造の建造物における高度な気流制御・空調施工も一手引き受けています。

② データセンター(DC)向け「壁吹き出し方式」冷却技術

データセンターでは、サーバーの冷却電力がDC全体の消費電力の30〜40%を占めるという大きな課題が存在します。同社は従来の「床下吹き出し方式」とは異なり、サーバーラックへ直接水平に冷気を送り込む「壁吹き出し方式」という高効率空調特許技術を開発しました。この技術は気流ロスや熱溜まりを解消して空調動力を大幅に削減するもので、IIJの白井データセンターなどで導入実績があります。

③ 強固な下請け組織「高和会」

下請け施工体制に関しても、以前分析したダイダンが比較的流動的な下請けネットワークに依存していたのに対し、高砂熱学工業は「高和会(こうわかい)」という協力会社組織を形成しています。高砂熱学工業は「高和会」に対して継続的な案件の供給や技術・安全衛生の指導を行い、下請け業者を強力に囲い込んでいます。

④ 人財投資と高い給与水準

人財投資の面でも、2022年度比で従業員数を約21%(約400人)増員する目標を掲げており、他社(大気社の+9%など)と比較しても積極的な採用・育成姿勢を示しています。有価証券報告書上の平均年収も約1,200万円と高水準であり、単なる現場作業員ではなく、現場を指揮・マネジメントし提案も行える「施工管理技術者」の確保と育成に注力しています。


3. 好業績の真実:データセンターの「幻想」と半導体クリーンルーム

① 利益率の劇的改善

同社の業績は急速に拡大しており、かつて5%程度(4〜5%)にとどまっていた営業利益率が11%まで急上昇しています。

② データセンター需要の誤解とリアル

市場では「AI・データセンター銘柄」として大きな期待を集めていますが、実際の売上構造を精査すると異なる実態が浮かび上がります。同社の分類においてデータセンター向け売上は「一般施設向け」に含まれており、その一般向け売上の7〜8%程度、全売上に対しては5%未満に過ぎません。したがって、直近の利益拡大はデータセンター需要による直接的な恩恵というよりも、業界全体の良好な環境が主因です。

③ 真の牽引役は半導体クリーンルームと「リカーリング収入」

好業績の真の牽引役は、産業用分野における「半導体工場のクリーンルーム施工」(熊本やラピダス向け案件など、30億円超の大型案件多数)です。一般ビルが15〜20年に1度しか大規模工事が発生しないのに対し、クリーンルームは過酷な環境下で運用されるため、新築後も定期的にリニューアルやメンテナンスが発生し、継続的な「リカーリング(継続)収入」をもたらすという構造的強みがあります。


4. 競合比較と業界の構造的ボトルネック

① 施工体制のボトルネック

案件受注を拡大するにあたり、自社の施工管理技術者を増やすだけでは十分ではなく、実際に現場で作業を担う下請け作業員のキャパシティや「働き方改革」による労働時間制限が成長の上限(ボトルネック)となります。

② 競合他社(ダイダン・三機工業)との比較

競合他社と比較すると、ダイダンが流動的な協力関係の中で業界並みの展開を行っているのに対し、三井系の三機工業は過度な規模拡大を追わず自社テリトリーで着実に案件をこなすことで高い資本効率(ROIC)を維持しています。


5. 経営姿勢と資本効率の課題(私たちが感じた物足りなさ)

① 自力マネタイズの壁

高砂熱学工業は圧倒的な特許技術を誇りながらも、長年営業利益率が5%程度に低迷していた歴史があります。業界の受発注習慣や構造もあり、自社の独自技術を直接高粗利なパッケージとして自力で高額マネタイズする仕組みが十分に確立していません。

② 海外展開のハードル

海外展開(アジア圏等)についても、日系企業の工場進出に伴う施工にとどまり、現地での下請け網や保守運用を含めた独自の展開には高いハードルが存在します。

③ 旺盛な研究開発投資とFCFの変動

同社は技術や研究開発に対する意欲が非常に高く、月面探査プロジェクトやR&D施設への投資を行っています。その結果、フリーキャッシュフロー(FCF)がガタガタと大きく変動し、資本効率(ROIC)の観点では他社比で特段高いわけではありません。


6. 財務・バリエーション評価と結論・投資スタンス

① バリエーション指標

  • PER: 15倍前後(過度な割高感はない)
  • PBR: 約3倍(過去履歴と比較して割安とは言えない)
  • EV/EBITDA: 10.8倍(業界標準基準の7倍よりやや高め)

② 足元業績の季節性

直近の第1四半期(および2四半期連続)は営業減益となっていますが、工事の完成・受け渡し時に売上が立つ「完成工事基準」の季節的特性があります。過去の決算履歴を見ると、期初予想から小刻みに修正を行い、通期で下方・上方修正を重ねてきた実績もあります(2024年度は営業利益150億円予想から240億円へ修正)。

③ 投資判断

結論として、半導体工場やリニューアル需要に支えられた短中期の業績堅調さは維持されると考えます。しかし、独自の省エネ技術を自力で高利益化するストーリーには一歩物足りなさが残ります。

現在のPBR約3倍という株価水準は業績好調を相応に織り込んでおり、下値を支える割安感は乏しいです。したがって、AIや半導体ブームの一巡など外部環境の変化によって株価が大きくガタガタと調整した局面において、「優れた技術と人財資産を持つ割安成長株」として買いを検討するのが魅力的なスタンスであると判断します。

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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2026年9月26日 11:57 AM
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今月のDiscord投稿用に調べた「日本電技」は高砂熱学、ダイダン、大氣社などあらゆる空調関連の企業と関わりがあり、かつTOPIX採用候補としても注目されており、株価も少しずつ騰がってきています。日本電技に関しては詳しくはDiscordの投稿をご覧ください。

高砂熱学やダイダンに単品で投資するよりも全てに関わりのある、いわゆる「ツルハシ企業」である日本電技に注目しました。
きっかけを作っていただいた栫井さん、元村さん、イズミダイズムの泉田さん、ありがとうございました!

そろそろDiscordに投稿するネタが尽きてきており、かつ自分自身のポートフォリオも取っ散らかってきていますので、これからは選択と集中のフェーズに入ろうと思います

2026年9月30日 2:01 PM
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返信先  U-witch

>高砂熱学やダイダンに単品で投資するよりも全てに関わりのある、いわゆる「ツルハシ企業」である日本電技に注目しました。

×「ツルハシ企業」という表現はちょっと違うかもなので
○「ピザ生地企業」に言い換えます。

日本電技というピザ生地に、高砂熱学やダイダンなどのトッピングが乗ることによりピザの種類が変わる みたいなイメージでしょうか。

どうでもいいことで書き込み失礼しました