
今回は、業績成長を維持しながらもPER約11倍、PBR約1.1倍と、極めて割安な水準に放置されているスーパー「ベルク(9974)」を徹底分析しました。
「業績も良くてこれだけ割安なら、今すぐ仕込むべき絶好のチャンスではないか?」
そう思われるかもしれませんが、注意が必要だと感じたのが、世の中の変化、すなわち「インフレ」です。「標準化」による低コスト戦略を売りにしているベルクにとって、インフレはどのような影響を与えるのでしょうか。
今回、私が実際に店舗へ足を運んで得たリアルな現場視点 と、競合「ヤオコー」とのビジネスモデル比較から、インフレ局面における考え方を議論しました。
本動画では、単なる企業分析にとどまらず、
- 「デフレ時代の成功モデル」がインフレ下でどうなるか
- かつて推奨し上昇した「ハマキョウレックス」の事例から考える、ベルクが「大化け」に転じるための具体的な転換点
を、会員の皆様に向けて分かりやすく、かつ深く解説いたします。
激変するマクロ環境の中で「本当に強いビジネスモデル」を見抜き、次の大化け株を仕込むための投資眼を養う内容となっています。ぜひ最後までじっくりとご視聴ください!
動画の内容
1. はじめに:なぜ今、スーパー業界なのか
長年にわたるデフレ経済からインフレ経済へと急激にシフトする中、日常消費を支えるスーパーマーケット業界はビジネスモデルの変革を迫られています。その中で、埼玉を主要地盤とする「ベルク」は、業績が堅調(最高益を更新)であるにもかかわらず、株価が割安な水準(PER約10.6〜11.2倍、PBR約1.13倍)にとどまっており、投資妙味があるのではないかと注目しました。
しかし、足元のインフレ局面において、ベルクと競合「ヤオコー(ブルーゾーンホールディングス)」との間には、収益構造とインフレ対応力において明確な「差」が生じています。本レポートでは、両社のビジネスモデルの徹底比較を通じて、今後の投資判断を詳しく紐解きます。
2. 徹底的な「標準化」で急成長を遂げたベルク
ベルクの最大の強みは、本社主導による**「標準化」と「マニュアル化」の徹底**にあります。
- 徹底された店舗運営:売り場のレイアウト、品揃え、調達、接客、そして作業手順に至るまで、すべて本社がマニュアルを決定しています。これにより、どの店舗でも誰が働いても「ブレがない均一なクオリティ」を実現しています。
- 高い生産性とコスト抑制:標準化により無駄な動きをそぎ落とし、人件費をはじめとする販売管理費を最小限に抑えています。店員はテキパキと効率的に動き、1人当たりの売上高も非常に高い水準を誇ります。
- 強固なインフラの早期整備:同社は店舗数がまだ30〜40店舗だった1990年代末頃から、自前の物流網や惣菜製造工場(セントラルキッチン)を整備してきました。この仕組みをPDCAサイクルで改善し続けることで、150店舗規模となった現在でも、効率的な配送と商品の鮮度維持、そして低価格の両立を可能にしています。
- 圧倒的な安さと綺麗さ:アイスが99円、弁当が500円未満(499円)など徹底的な安さを提供する一方で、店舗やパッケージは清潔に保たれており、安さだけではない快適な購買体験を提供しています。結果として、業界平均(イオンやライフ等の営業利益率約2%前後)を大きく上回る、約4.5%の経常利益率を誇ってきました。これはドン・キホーテ(現場権限委譲型)とは対照的な、強固な本社統治モデルの成功例と言えます。
3. インフレが露呈させたベルクの「弱点」
しかし、マクロ環境がインフレに転換したことで、ベルクの強みであった「低価格モデル」が裏目に出始めています。
- 利益率の低下:昨年度の決算では、営業収益(売上)が9.2%伸びたのに対し、営業利益の伸びは5.2%にとどまり、利益率が低下しました。さらに直近の第1四半期(5月まで)では、ついに**「増収現益」**へ転落しています。
- 来店客数の減少と価格転嫁の難しさ:足元では既存店売上高や来店客数が前年割れする月が目立っています。前期は他社より米を安く調達しセールを行うなどのプロモーションが功を奏してお客を呼び寄せましたが、その反動減に加え、インフレによる生活防衛意識の高まりから財布の紐が固くなっています。
- 顧客感応度の壁:顧客は「安さ」を期待してベルクに集まるため、原材料や物流コストが上がっても安易な「値上げ(価格転嫁)」に踏み切りにくく、コストアップを自社で吸収せざるを得ない構造になっています。
4. ライバル「ヤオコー」にみる驚異の「インフレ対応力」
一方で、同じく埼玉を地盤とするライバルの「ヤオコー」は、インフレ下でも極めて良好な決算(増収増益)を維持しています。両者の差は**「お惣菜(デリカ)戦略」のポジショニング**にあります。
- 店舗キッチンの強み:工場一括生産のベルクに対し、ヤオコーは各店舗に調理キッチンを構え、おばちゃんたちが目の前で作る臨場感と「美味しさ」を提供しています。お惣菜のイメージ定着においてヤオコーは一歩リードしています。
- 圧倒的な高粗利(約50%):スーパーにおいて、生鮮食品やグロッサリーの粗利率が20%台であるのに対し、お惣菜部門は50%近い非常に高い粗利率を誇ります。
- 約3割高い価格設定でも売れるブランド力:例えば、名物の「おはぎ」はベルクが99円であるのに対し、ヤオコーは130円です。他の弁当もベルクが400円台のところ、ヤオコーは600〜700円台と、全体的にヤオコーの方が約3割高い値付けですが、それでも顧客は「美味しいお惣菜」を求めて購入します。
- 値上げの受け入れやすさ:顧客が「安さ」ではなく「価値(美味しさ)」を求めて来店しているため、価格感応度が低く、多少値上げしても顧客が離れにくい=インフレ時の価格転嫁力が非常に強いという特徴を持ちます。この差が、営業利益率を下げずに成長を続けるヤオコーの強さとなっています。
5. ベルクの打開策と次なる挑戦
ベルクも手をこまねいているわけではなく、以下のような反撃・模索を始めています。
- PB(プライベートブランド)の強化:粗利率の高いPB商品のラインナップを増やし、現在売上構成比は9.8%まで高まっています。
- 新業態「クルベ(CLBE)」の展開:鮮魚に特化した新業態(例:熊谷銀座店など)を立ち上げています。海なし県である埼玉県において「抜群に鮮度の良い魚を安定して届ける」という、低価格以外の強力な付加価値(来店動機)を確立できるか、模索を続けています。
6. 今後の投資妙味と判断
- ヤオコー(ブルーゾーン)の評価: M&A戦略(近年も地方スーパー「せんどう」などを傘下に入れ、着実に規模を拡大)を進めており、全国展開を視野に入れた強固な成長軌道にあります。ただし、インフレ耐性や実力がすでに評価され、株価(PER約15倍)にはその強みが十分に反映されている印象です。
- ベルクの投資判断と狙い目: 現状、毎年6〜8店舗ずつ堅実に店舗を増やしてはいるものの、この出店ペースは30〜40店舗規模だった時代から変わっておらず、成長スピードの意欲としてはやや保守的(相対的にスピード鈍化)に映ります。また、社長が若く、これまでの「標準化路線」を踏襲するにとどまり、インフレコストを跳ね返すほどの強力な成長ストーリー(もう一ひねり)を提示しきれていません。 かつて私たちが推奨した**「ハマキョウレックス」が、単なる運送業から「3PL事業」という高成長・高付加価値事業への転換を遂げて大化けしたように、ベルクにもそうした変革のトリガー(引き金)**が必要です。
現時点の見方:『方向性が定まるまで、今は「様子見」』
株価指標としては魅力的ですが、足元の利益圧迫と客数減少が続く限り、今すぐの購入は時期尚早と考えます。しかし、新業態「クベル」の確立や、鮮魚・PB強化による「低価格依存からの脱却(=高収益フォーマットの完成)」といった**『もう一ひねりの転換点』の兆候が数値や戦略として見え始めた瞬間こそ、市場が認知する前に割安で仕込む最大のチャンス(大化けのポイント)**となります。
引き続き、月次の客数動向と新業態の展開状況を厳密にモニタリングしてまいります。
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執筆者
栫井 駿介(かこい しゅんすけ)
つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師
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